7月28日(月)日の出。涸沢ヒュッテでは、多くの人がテラスに出てモルゲンロートを鑑賞している。自分も初めて見るその光景に「これがモルゲンロートなのか~」と心の中でつぶやき写真に収める。朝食後、荷物をまとめて6時40分頃、涸沢ヒュッテを発った。
まずはパノラマコースを通ってザイテングラートを目指す。途中、大好きなチングルマの群生地を通過したが、残念ながらほとんど綿毛になっていた。チングルマの綿毛は、めちゃくちゃに乾かした髪の毛みたいで可愛い。日の出直後は涼しかったのに、陽が昇るとすぐに暑くなってきた。晴天の中、雪渓とお花畑、穂高の峰々を眺めながらゆっくり進む。
ザイテングラート取り付きに着いたのは8時40分頃。一度ザックを下してヘルメットを着用する。ザイテングラート(独語で「支稜」「支尾根」の意)はこのコース中で最も危険な箇所で、過去に多くの滑落事故が起きている。いつもは写真係だが、ここを抜けるまで写真は撮らないと決めた。
ザイテングラートは、まさに「支稜」と呼ぶにふさわしい頂上に向かって伸びる岩の塊のようなもので、手を使いながらよじ登っていく。背中のリュックが重いので、時折後ろに引っ張られそうになるのが怖い。足を置いた岩が動かない場合はいいが、動くものもあるので、用心しないと自分も危ないし、後続者にも怪我をさせかねない。途中、短いハシゴや鎖もあり、緊張が続く。1時間半ほどかけてザイテングラートを抜け、10時23分ようやく穂高岳山荘に到着した。空にはすでにガスがかかり始めていた。
山頂までの最後の登りは、穂高岳山荘のすぐ横から始まる。YouTubeでたくさん予習したので、見慣れた風景である。トイレや水分補給を済ませ、必要最小限の物だけ軽量ザックに入れて、最後の登り支度をする。
実は、数か月前からこの日の朝まで、奥穂高の山頂を目指すか、他のメンバーを見送り、自分だけ穂高岳山荘に残るか迷っていた。そもそもこの山行自体、自分は最初から参加する予定ではなかった。東京都の最高峰である雲取山も、八ヶ岳も登ったことがない、体力・脚力もない、高所も苦手な自分が、日本の第三高峰である奥穂高に登るなど、大逸れたことは考えたこともなかった。それが、奥穂高岳山行が計画された時、奥穂高に登るグループと、涸沢止まりで一日早く下山するグループに分かれると聞いていたので、憧れの上高地と涸沢カールだけは見ておきたい、と手を挙げたところ、涸沢止まりを希望したのが自分だけで、仕方なく奥穂高グループに付いて行くことになったのだった。
書籍やYouTubeで予習したところ、穂高岳山荘から奥穂高岳山頂までの最後の登りは、最初の20分は怖いが、そこを抜ければ難しくないようだった。「ザイテングラートを抜けることができたら、山頂までの最後の急壁も登れるかも知れない」と思った。Hリーダーの「Kさんの気が変わらないうちに、さっさと登っちゃいましょう」という声が聞こえた(笑)。まさしくその通り!あまり深く考えないで、登ることにした。時刻は11時。
一番怖かったのは、ほぼ垂直に近い角度で取り付けられたハシゴ2か所だった。下を見ると怖いので、なるべく見ないようにして「行けるよ~!」と声を出して自分を励ましながら一段一段登る。眼下には穂高岳山荘の赤い屋根。怖いのは間違いないが、YouTubeで何度も見た光景だったので、予想していたほど恐怖は感じなかった。2本目の長いハシゴをクリアした時は信じられない思いだったが、まだ気は抜けない。次は鎖だ。鎖につかまり、岩の反対側に向かって少しずつ進む。その次は、鎖は無いが、下が丸見えで足元が細くなっている所。ここはYouTubeで見た時、一瞬のうちにして足の裏に冷や汗をかくほど恐怖を感じた所だったが、実際はそうでもなかった。
自分にとっては超難所(他のメンバーはなんとも無かった様子)を突破し、ようやく安全な場所へ出た。少し歩くと、人目もはばからず(笑)登山道で砂浴びをするライチョウのオスの姿が!皆で喜んでいると、メスも姿を現し、しばし撮影会に。人間を怖がる素振りもなく、何かをついばみながらあちらこちらへ移動するライチョウたちの姿にすっかり目がハートになってしまった。こんなに人懐こい野生動物がいるのか。恐怖心を克服してここまでたどり着いた自分たちへのご褒美のようだった。そのうち、メスが「皆さん、こちらですよ」と言わんばかりに、リーダーの前を歩き始め、しばらくの間、登山道を先導してくれた。私達は彼女を「ライチョウ・タイチョウ」と名付け、しばらく後をついて歩いた。
11時46分、山頂に到着(日本第3高峰、3190m)。残念ながらガスで、360度のパノラマビューはのぞめなかったが、それでも時折途切れるガスの隙間から、穂高連峰の山々や難所として有名なジャンダルムが見えた。山頂には小さいが立派な穂高神社の嶺宮があり、全員でそれを取り囲んで記念撮影。その後もしばらく山頂に留まり、各人思う存分眺めを楽しんだり、写真撮影をしたり、他の登山者と交流したりした。
12時半頃下山を開始し、13時9分、穂高岳山荘に戻って来た。皆で万歳三唱した。あの時の達成感と安堵感は格別で、一生忘れられないと思う。
山荘で昼食後、休む間も無く涸沢岳(日本で8番目の高峰、3110m)へ向かった。予定通りとは言え、皆、気力体力共に普通じゃない。しかも、3000m超の高山というのに。涸沢岳への登山道は穂高岳山荘のすぐ横から始まっており、山頂への道を少し迷ったものの、30分ほどで頂上に着いた。その頃にはガスはすっかり晴れて青空。周囲の穂高の山々、そして向かいの常念岳まで見えた。
下山後は、山荘前のテラスでビールや温かいコーヒーを飲みながら遠くの山々を眺めたり、中のラウンジに座ってカフェ気分を味わったりして、思い思いに短い山荘タイムを過ごした。その後、5時から夕食。前日の涸沢ヒュッテ同様、穂高岳山荘でも高山の山荘とは思えないほどちゃんとした夕食がいただけた。ありがたい、の一言だ。夕食後、残った行動食を持ち寄って飲み会。途中から隣の男女2人組(夫婦ではない)も会に加わり、尽きない山の話で盛り上がった。
最終日の7月29日(火)、4時起きで出発の支度。途中で外に出て朝焼けを鑑賞し、朝食のお弁当を食べ、ヘルメットを着用して5時に山荘を後にした。まずはザイテングラートの下りだ。滑落事故の多くは下りで発生するとのことなので、登りの時より一層気を引き締めて臨む。ここを無事に下らなければ、奥穂高登頂を達成したことにならない。予定より長くかかったが、全員無事に下り、ヘルメットを外して安堵した。その後、涸沢小屋で念願のソフトクリーム(700円!)をいただく。上高地発の帰りのバスの時刻は午後4時半だったが、下山後に昼食や入浴をする予定だったので、スピードを上げ、怪我しないように足元に全神経を集中させて一心不乱に下山。そのおかげで、上高地に着いた頃には、脚はパンパン。軽くなっているはずのザックが、昨日より重く感じられる程とことん身体に堪えた。上高地からバスで新島々へ、そこから松本電鉄でJR松本駅へ。午後6時40分発の特急あずさに乗り、立川に着いたのは午後8時50分だった。ホームでもう一度Hリーダーにお礼を言い、各自帰路に就いた。
山行前は、緊張のためよく眠れない日もあったが、下山してからは達成感と共に、目標が無くなってしまった空虚感に包まれている。本山行のみならず、半年前から事前トレーニングとして他の山行を計画・実施してくださったHリーダーには感謝の気持ちでいっぱいだ。それから、一緒に登ったK.Kさん、Yさん、Mさんにもありがとうと言いたい。皆と一緒でなければ、奥穂高岳の山頂に立つことはなかったと思う。(K記)









コメント
Kさん、やりましたね〜(≧▽≦)
事前準備を万端にしてYouTubeで何度も予習をして、この日のために頑張った姿が目に浮かび、丸でオリンピック選手が本場に向けてイメージトレーニングを重ねてきたみたいで目頭が熱くなりました。
文章もとても上手くて素晴らしい記録だと拍手喝采です。
そして、ここまでKさんを引っ張ってきたMさんに脱帽です。
本当に素晴らしいペアです👏